** 2005/04/07 – Baia-Mare [苦戦] **
昨夜は Satu-Mare という街の、ものすごく立派な構えのホテルに泊まる。
朝食後、トビーたちと別れて一人駅へ、運良く30分後に Baia-Mare 行きの列車があって気分よくしていると、ルーマニア人たちが話し掛けてきた。言葉が通じないのがわかると、スペイン語かイタリア語風の語彙混ぜて話し出す。片言のスペイン語、いんちきフランス語をまぜながらこっちも話してみるとなんとなく通じた。
列車は田園風景の中をのんびりと走る。馬車で畑へ向かう人たちがみえる。2時間ほどでバイアマーレについた。順調だ。
この先2週間ほど田舎で過ごすつもりなので、ネットカフェで用事を済ませ、宿を探す。
20分も歩けば街のはずれへ行けるこの街には、しかし安宿がどこを探してもも見当たらない。初めはさわやかに感じた日差し、も重い荷物を背負って歩き回っているうちにだんだん暑く感じてくる。ホテルはどこも1500000レイ、1200000レイ(日本円で6000円ー7000円)。コーヒーいっぱいが8000レイ(30円くらいか?)、2時間の電車賃が37000レイ(約150円)だったから、と考えだすと頭のおかしくなるような金額。日が暮れるころやっとのことで700000レイ、2800円くらいの宿を発見。そのままくたびれ果てて寝た。
** 2005/04/09 – Maramures [マラムレシュ vol.1] **
眼下には北側の山を削り取りながら蛇行し流れるイザ川が、その川に沿うように次の村まで続いている畑からは、昨年収穫した後そのまま残されたトウモロコシの茎や葉を燃やす煙がいく筋も立ち昇っている。南には雪をいただいた山々がみえる。
村と村とを結ぶ唯一の舗装道路には堆肥を積んだ馬車や農具を担いだ人たちがゆっくりと歩いている。僕のいる丘の上にはネコヤナギに似た木が黄色い花を咲かせ、その周りを小さな虫が飛びまわる。
ルーマニア北部マラムレシュ地方の Vadu Izei という小さな村のはずれの丘の上にて一日、そんな景色を見ながら練習して過ごす。春の日差しは暖かく、Tシャツを脱ぎ上半身裸になって馬頭琴を弾く。
午後になり風が出てくるとさすがにまだ寒く、夕ご飯にはまだ早いけれど宿に戻ることにした。帰り道、朝と同じ作業を黙々と続けるお婆さん、仕事を終えて家に帰る馬車に乗ったおじさんの脇を、真新しい乗用車が新幹線のような猛スピードで走りすぎる。ここの生活の速度に慣れた僕には、それはあまりにも野蛮な、恐ろしい物に感じた。
民宿に戻ると、昨日同様、男たちが馬の蹄鉄を換えていた。
この地方の地酒、プラムの蒸留酒ホリンカをすこし飲み、ハンマーのカン、カーンという音をききながらうとうとしていると、食堂から民謡が聞こえてくる。おりていくと地元の若者(といっても僕と同じかちょっと若いくらいか。)グループがパーティーを開いていた。隣でご飯を食べているとこっちへ来いというのでグラスを持って仲間に入る。豚の脂の塩漬けを生のタマネギと一緒に食べ、ホリンカを何杯もあける。
足のように太い腕を持つ男、ボクダン曰く、農作業の疲れはこれで吹っ飛ぶのだという。
宿のおばさん、子供たちも民族衣装であらわれ、マラムレシュ民謡のCDにあわせて、みんなで歌い、踊る。いつまでも続く音楽と、ノローク(乾杯)!の声。
** 2005/04/13 – Maramures [マラムレシュ vol.2] **
Vadu Izei について4日、美しい自然、おいしい食事、ゆっくりとしたときの流れ、パーティー、素朴で温かい人たち。これ以上何も望むものはないはずなのに、何とも落ち着かないこの気分はどういうことだろう。ずっと昔から変わらない生活をしてきて、今も大地を耕しながら暮らすマラムレシュの人たちと僕との、どうにも超えがたい違い。そんなことは初めから分かっていることのはずだし、むこうにとってはツーリストは別に珍しい存在でもなんでもないのに、なぜか僕は自分で壁を作ってしまっているようだ。
場所が変われば気分も変わるかな、と思い、 Ieud という村へ向かった。ヒッチハイクで車3台乗り継いで、イザ川を40キロほどのぼっていき、1時間半ほどでたどり着く。この地方で一番古い木造の教会があると聞いていたので、まずはそこへ行ってみることに。5分も歩くと村のはずれに出た。丘の上に細長く尖った屋根の美しい教会が見える。そのむこうは牧草地、そして雪のつもった山。聞いていたとおりほんとに美しい山間の村だ。教会の敷地の中ではおばあさんが何か作業をしている。声をかければきっと笑顔で答えてくれるんだろうけど、なぜか触れたくないそんな気がして、隠れるように木の門の前で休憩。
しばらくして宿を探すでもなく歩いているといつの間にか村の外へ出てしまった。そのまま次の村まで5キロほど歩くとバス停があった。このまま帰ろう、そんな気分になり、そばにいたおじいさんにバイアマーレへ行くバスはあるかと聞くと、2時間後にくるという。それまで家へこいというので着いて行く。温かいスープと手作りのおいしいパンを出してくれた。それから15、6歳くらいの息子と一緒に畑へ行き、馬がえさを食べている間、草の上に寝転がって彼の通じないながらもいろいろ話してくれる話を聞いてバスの時間まで過ごした。
バスをつかまえて今朝来た道を戻り、ヴァドゥイゼイへ。そして今度はマーラ川を登って峠道へ。
窓ガラスに自分の顔が何とも不機嫌な、悲しげな顔に映る。いったい何を求めてここまで来たのだろうか?俺はいったい何をしている?
まだ雪のたくさん残る峠で休憩。あちこちにフキノトウが顔を出している。1つちぎってにおいをかぐとよく知ったいいにおいがした。バイアマーレへと下る道沿い、青紫色の美しい花が林の一面に咲いていた。
こうして逃げるようにマラムレシュを去り、バイアマーレに戻る。街を歩いていると男が宿はいらないかと声をかけてきた。1泊10ドルで彼の家に泊めてもらうことにした。
床屋を捜しているというと、バリカンがあるという。そいつを借りて、浴室で一気に頭を丸めた。
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