2005.3.8~14 《UK》

uk

** 2005/03/08 – London [到着] **

3月8日夜明け前、ヒースロウ国際空港に降り立つ。

出国前日まで忙しく這いずり回って、明け方4時近くまであれこれ探し物をしたりと準備におわれて、くたびれはてた。好きで計画したにもかかわらず、ああ、めんどくさい、行くの止めようかなあ、などと本気で思ったりもするから勝手だ。
そんな出発時の気分もクアラルンプール経由というとんでもない経由便を選んだおかげですっかり解けて、入国手続きを終えて早朝の地下鉄に乗る頃には新鮮な気分になっていた。
朝6時半、街の中心へ向かう地下鉄には駅で配られている無料の新聞「METORO」を読む人が目立つ。いつものようにというか、決して時間どおりスムーズには走ってくれない地下鉄に苛立つ様子もなく、時計に目をやる人もいない。そんなゆったりと落ち着いた雰囲気にほっとする。無意識でポケットを探っている自分に気づく。携帯電話を探していたのだ。
見渡すとここではメールを打つ姿はほとんどない。日本に来た外国人はまずメールをしている人の多さに驚くかもしれない。

2年前一月ほど住んでいたことのあるアールズコート駅で降りて、ネットカフェでサーシャ(僕の1stCDを作ってくれた友人。CDの最後の詩は彼の作品)が起きるのを待って、8時半に電話をいれる。彼の住むハマースミスで待ち合わせ。彼は僕の死角である左側から近づき知らん顔で隣に並び僕をひじで小突いた。彼の変わらない笑顔にロンドンにいるんだなあと実感。一年前が一瞬にして昨日のように思い出される。
駅から彼の家へ向かう道は桜並木になっていた。日本よりもずっと北にあるロンドンの桜がなぜかもう大きなつぼみをつけていていくつかほころんでいた。

 この木に登ろうとして…
ipl-1
ギックリ腰直後。笑顔ではあるが、そうとう痛いはず。
ipl-2
イップスウィッチ郊外のエルム(ブナ)の古木
ipl-3
 

** 2005/03/09 – South-Bank **

馬頭琴、折り畳みチェア、CDを持ち、夕方の街へ繰り出す。ロンドンでの平日の日課だ。
地下鉄に乗りエンバンクメント駅へ。改札を出て左へ、テムズ川にかかる橋をサウスバンクへ向かう。いろんな場所で試してみたけれど、弾いていて気持ちよくて、邪魔の入ることの少ないこの橋の上が一番しっくりくる。2年前からのお気に入りの場所だ。列車の走る橋を真ん中に、東西に歩道橋が2本並ぶ。東側を歩けば遠くセントポール大聖堂や去年はまだ建設中だった宇宙的巨大卵を連想させるロンドン一奇抜な高層ビル(名前はなんだ?)。西側を歩けばウェストミニスター、ビッグペン(ビッグベンか?)ロンドンアイなど観光地が一望できるこの橋は、夕方には仕事帰りの人々や、サウスバンク(テムズ川南岸)の美術館、コンサートホールへ行く人たちにも利用されている。
橋を3分の2ほど渡ったところでCDを並べ、椅子をセット。まだ明るいが馬頭琴を弾きはじめる。いつもの事だが、列車の音がうるさくてみんなの耳に届いている感じはしない。
だけど久しぶりにバスキングをしているという気持が、とても幸せな気分にさせる。

日が落ちる頃、一人のおばさんがCDを買っていった。
「ツァガーンサル」(正月)というあまり弾かない曲を弾いていた時だったので少し意外だった。そう言えばサーシャの娘もこの曲が好きだったなあ。イギリス人の好きなメロディなんだろうか。
すっかり暗くなって列車も少なくなり、夜の湿った風が身体にこたえだす頃、馬頭琴の音が明らかに変わってくるのが分かる。この音。懐かしい。モンゴルでは絶対にならない音。テムズ川から立ちのぼる湿気をめいっぱい吸い込んで低くなった音が、街の上に覆い被さるようにしっとりと重たいロンドンの空気の中に染み込むように流れていく。

 

 

 

** 2005/03/12 – Ipswich [早くもピンチ] **

ロンドンからバスで2時間、イギリス東部の町・イプスウィッチ郊外の、のどかな牧草地を友達ですばらしいホーミーの歌手・ラーミと散歩した。(柔らかい陽射しの中、キジやウサギ、たくさんの鳥が鳴く中を歌いながら!)イギリスの田舎にはブナやナラの大木が所々に生えている。そんな樹の中にものすごくいい枝ぶりの樹を(登ってくれと呼んでいるように感じた)見つけた。
近寄ると一番下の枝までもう少しで手が届きそう。幹の窪みに足をかけてその枝に飛びつきよじ登ろうとした時…やってしまった。
腰に鈍い痛みが走り、冷や汗が出てくる。なんとかその枝によじ登り、ラーミに悟られないようにしばらくそこで休んでから、やっとのことで樹から下りることが出来た。その後ものんびりを装って、でもしばらく散歩を続けたのは彼に心配をかけないため、ではなく、単に僕の負けず嫌いでやせ我慢な性格からだったか?

彼の家に戻り、しばらくしていよいよ痛みがひどくなり、とうとう打ち明ける。
彼と彼のパートナーのジャンにヒーリングを施してもらったけど、靴下を履くのもつらい、寝返りはうてない、顔を洗うのも一苦労という有り様。重いバックパックを背負ってのこの先の旅を果たして続けられるか?

イギリス南東部、イップスウィッチからほど近い海岸線ipl-4 海岸で発見した巨大シェルモニュメント(約3m)
ipl-5